月刊OPTRONICS
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2011.5 vol.30 No.353 |
フレキシブルエレクトロニクスへの期待
山形大学 時任 静士
次世代のエレクトロニクスとして,幾つかのキーワードが業界紙を賑わせている。プリンテッドエレクトロニクス,有機エレクトロニクス,そして本誌の主題であるフレキシブルエレクトロニクスである。これらは言葉の意味合いが異なるため,同じ土俵では比較できない。プリンテッドエレクトロニクスは製造の方法,有機エレクトロニクスは主たる機能材料,フレキシブルエレクトロニクスはデバイスの形態を表現している。筆者らが最も注目しているのは,これら領域が融合した部分である。つまり,有機材料を主材料として,プリンティング(印刷)法で製造できる超薄型,超軽量なフレキシブルデバイスである。具体的な応用分野としては,ディスプレイ,各種センサー,無線タグや論理回路等への応用が期待される。本稿では,その代表的な応用例であるディスプレイに限定してフレキシブルエレクトロニクスの研究開発動向と展望について述べる。・・・(続きは本誌で)
溶液から高移動度有機結晶トランジスタ
(独)物質・材料研究機構 塚越 一仁,劉川,三成 剛生
簡便な溶液プロセスによる電子デバイスの作製は,エレクトロニクスの低コスト・大面積化を達成するキープロセスであると考えられている。中でも,最も有望な電子材料として,可溶性を有する有機半導体が挙げられる。その一方で,溶液から製膜した有機半導体は,移動度や安定性の面で無機半導体に劣ると考えられてきた。このような背景に対し,我々は有機分子の自己組織化特性を最大限に引き出す2段階自己組織化法を独自に開発した。有機半導体と絶縁ポリマーとの混合溶液を基板に塗布すると,半導体とポリマーの2層構造が自己組織化的に形成される。さらに,溶媒蒸気に短時間曝すことで,有機半導体分子はポリマー上で自発的に集合し,高品質の有機単結晶を形成した。本方法によって有機半導体単結晶を基板上に直接形成することが可能となり,分子が有する伝導性を最大限に引き出すことに成功した。作製した単結晶有機トランジスタの移動度は最大で9.1cm2/Vsに達し,性能とコストの両面で優れたデバイスを溶液より形成することが可能となった。・・・(続きは本誌で)
室温焼結性銀ナノ微粒子を用いたプリンテッドエレクトロニクスへの展開
山形大学 栗原 正人
半導体産業に代わる次世代の産業基盤として,“プリンテッドエレクトロニクス”(PE)の国家プロジェクトによる推進に大きな期待が寄せられている。新たな付加価値を創出する製造技術としてPEが注目を集めている。PEはフレキシブル性が高い特に有機基板に印刷によって回路形成(パターニング)を行う技術の総称である。この実現により,エレクトロニクス製品などの製造工程が劇的に簡便・時間短縮化され,更なる省資源・省エネルギーも同時に達成できる。また,PEは日本政府が掲げるグリーン・イノベーションに直結する低炭素化技術においても重要な位置づけである。機能性ナノ微粒子が溶剤に安定分散するナノ微粒子インク,例えば,金属ナノ微粒子,酸化物ナノ微粒子,配位高分子ナノ微粒子インク,PEを支える基盤材料である。その材料技術では,日本はまだ高い水準を維持しているようであるが,その開発競争は世界で激化している。・・・(続きは本誌で)
量産プロセスのための塗布型有機半導体と絶縁膜材料の開発
メルク(株) 川俣 康弥
Merck Chemicals Ltd. Giles Lloyd
近年,有機半導体の開発が早いペースで進んでいるが,中でも最も顕著な進展をみせているのは,可溶化低分子材料の開発である。それらの材料は,固体の薄膜において高い構造秩序を持ちながら,優れた溶解性を示している。このような材料の一例として最も広く研究されているのは,TIPS-pentaceneである。溶解性に優れているので一般的な有機溶剤でフォーミュレーションを作ることができ,スピンコートなどの簡便な製膜技術を適用することができる。溶剤系を改良することにより,さらに高度な製膜技術を適用することが可能となる。例えば,凸版印刷とソニーは,有機半導体層としてTIPS-pentaceneをインクジェットで印刷形成し,すべて印刷プロセスで10.5インチフレキシブル電子ペーパーを作製した。TIPS-pentaceneを応用した他の例は,より典型的な作製法ではあるが,LG Displaysの報告がある。これら二例の主な欠点は,実デバイスのTFT における有機半導体材料の特性が低いことであった。ここでは,電子回路やディスプレイの背面板を高効率で量産可能な印刷プロセスのための,新しい材料とフォーミュレーションの開発を紹介する。・・・(続きは本誌で)
フレキシブル有機ELディスプレイ
NHK放送技術研究所 藤崎 好英
近年,有機エレクトロニクスが大きな注目を集めている。有機材料の持つ構造の柔軟性,材料の多様性,また塗布・印刷製法を導入することにより低温・低コスト・低環境負荷での製造が可能になるなど,従来のシリコンデバイスを中心としたエレクトロニクスにはない新しい機能や付加価値をもたらすことができると期待されている。有機エレクトロニクスの応用は,センサや太陽電池など多岐に亘るが,その中でもディスプレイ応用は最も注目されている技術の一つである。近年,ディジタル放送やスマートフォンなど携帯受信端末の急速な普及に伴いディスプレイを使うシーンはますます広がってきている。“いつでも・どこでも・だれでも”高画質の動画やデータを入手できるようなユースフル・ユニバーサルな社会が現実化してきており,場所や時間に制約されずに視聴できるような可搬型ディスプレイのニーズが一層高まっている。・・・(続きは本誌で)
フレキシブルディスプレイを実現する印刷技術
凸版印刷(株) 喜納 修
活性層に有機半導体材料を用いた印刷法で作製する薄膜トランジスタ(TFT)が注目を集めている。真空工程やフォトリソグラフィといった生産技術を用いるエレクトロニクス分野において印刷技術は,生産方式の革新技術として有望である。印刷で形成する有機TFT は大面積,低コスト,低環境負荷,低温,フレキシブルといった可能性を持っていることが注目の要因である。フォトリソグラフィや真空工程によって有機TFT を形成することも可能であるが,多額な設備コストや複雑な工程,高温処理が必要で,材料の利用効率が低く,有機TFT の魅力を引き出すには至らない。つまり,有機TFT の作製のためには印刷技術が最適といえる。一方で,ディスプレイ分野の既存製品ではフォトリソグラフィが主たるパターン形成方法として用いられ続けている。既存製品の要求分解能(≦10μm)と要求品質(信頼性)は従来印刷技術では得られないためである。本稿においては,有機TFTの印刷法による形成技術について紹介する。・・・(続きは本誌で)
光通信技術の基礎 −原点を見直し,将来を考える− 第5回 融着技術:技術開発の歴史と今後の動向
(株)フジクラ 川西 紀行
各研究機関で光ファイバに関する研究開発が始まると,融着接続に関する技術開発も追従して行われるようになった。1971年にはニクロム線による光ファイバ融着実験が行われた1)。1970年代に光ファイバの単位長当たりの光損失は劇的に低下したが,融着接続損失は劇的には低下しなかった。光ファイバ1kmの光損失が0.2dBを切っても,シングルモード光ファイバの融着接続損失は0.2dBを超えていた。熱源が不安定であったこと,切断端面の状態が悪かったことの他に,コアがクラッドの中心からずれていたこと(以降はコア偏心と呼ぶ)が大きな問題であった。例として,コア偏心が0.625mm(クラッド外径125mmの0.5%)である場合,2本の光ファイバの最大コア軸ずれ量は2倍の1.25mm(クラッド外径の1%)となる。モードフィールド径9.5mmの場合,コア軸ずれ量1.25mmの光損失は理論計算値2)で0.3dBになり,光ファイバ1kmの光損失よりも大きい。当時の光ファイバ製造技術では,コア偏心の小さい光ファイバを製造することは困難であった。・・・(続きは本誌で)
発明・特許のこぼれ話 第41回 アイザック・ニュートン
SMK(株) 鴫原 正義
アイザック・ニュートン(1642〜1727)…聞くほどに偉大な名前です。ニュートンはガリレオ・ガリレイ(1564〜1642)が亡くなった年のクリスマスの日にイングランド東部リンカンシャー州の片田舎で生まれました。幼い時に父親と死別し,ここでは省略しますが複雑な経緯を経て1661年にケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学します。しかし1665年にロンドンでは3万人以上が亡くなるといったペストの大流行により大学が閉鎖されます。止む無く故郷に戻ったニュートンは微分積分学をはじめ光学や力学に関する研究に没頭し,猛烈な思考を繰り返しています。そしてこの「奇跡の年月」と呼ばれる期間に凄いことをやっているのです。因みに,そのような時期に学生の個別指導を行うチューター役のアイザック・バロー(1630〜1677)に巡り逢えたことも幸いしたともいわれます。並々ならぬニュートンの才能を見抜いたバローがそれを引き出す役を果していたのです。・・・(続きは本誌で)
光技術者のための基礎数学 第29回 幾何学(VII)
職業能力開発総合大学校 河合 滋
図11.31において,参照球面の半径をR「,O「P「がz軸となす角度をq「とする。また,P「における垂線が像面と交わる点をM「とし,O「P「とM「P「がなす角度をa「とする。この時,y「方向の光線収差は,M「O「で与えられる。a「が小さい時には,M「O「は次式で表される。
光技術の研究開発・特許動向II/技術別に見る最新情報 第161回 単結晶シリコン太陽電池
嶋本国際特許事務所 嶋本 久寿弥太
単結晶シリコン太陽電池は,結晶シリコン太陽電池(単結晶・多結晶)が世界市場をリードしてきている中で,変換効率や信頼性も高く,最も古くから知られている技術である。ただ,他の太陽電池と比較すると高価であるという欠点がある。基本的な構造は,正孔を持ったp型半導体と,電子を持ったn型半導体それぞれの単結晶シリコンの薄膜(厚さ約200mmのシリコンウエハ)を密着させた構造のpn接合が「単結晶シリコン太陽電池」とされている。「単結晶シリコン太陽電池」の特許出願公開(国際出願,特許公表を含む)をみると,1995年6月2日から2011年2月24日までのほぼ16年間にかけての特許出願公開は827件を記録し,年次毎にみると,1995年7件,96年10件,97年26件,98年39件,99年45件,2000年81件,01年80件,02年79件,03年45件,04年35件,05年69件,06年67件,07年46件,08年57件,09年53件,10年74件,11年14件となっている。単結晶シリコン太陽電池関連分野に参入した企業(含大学・独立行政法人・外国企業)では次の特許出願人が見られる。・・・(続きは本誌で)
赤外線カメラ,セキュリティ用途で普及拡大に期待!
編集部
可視カメラでは捉えることが難しい物体や現象を映像化する赤外線カメラ。その技術は軍事用途から発展してきたもので,現在では民生用途にも波及し,様々な産業分野で適用されている。赤外線カメラは赤外線を物体に照射して検出する(アクティブ)方式と,物体が発する赤外線を検出する(パッシブ)方式の二つに大別できる。両方式は測定する対象物や環境条件,冷却型か非冷却型などによって使い分ける場合があり,一般的には,「アクティブ方式は材料・機器内部の欠陥検出などといった非破壊試験に,パッシブ方式は対象物の表面温度分布の測定に使用されることが多い」(日本赤外線サーモグラフィ協会)という。このうち,パッシブ方式は新型インフルエンザによるパンデミック対策として,スクリーニング用途向けに空港を始め,公共施設や企業などへの導入が進んだ。また,東日本大震災や福島原発事故でも被災現場での救助活動や災害復興,建屋内外の状況把握などに活用されている。一方で注目されている市場がある。セキュリティ分野における監視カメラ市場だ。・・・(続きは本誌で)
NEWS FLASH
MARKET WATCH
▼光学フィルム市場,2015年に太陽電池,LEDバックライト,LCD向けが拡大を牽引
▼国内需要が牽引し,記録型BD世界需要2億枚を見込む
▼レーザ加工機輸出数量,13ヶ月プラス
▼発光ダイオード生産実績,19ヶ月連続のプラス
▼民生用電子機器国内出荷金額,対前年同月比88.2%の2,310億円
▼総務省,FTTHの契約数を発表
CALENDAR
EVENTS
▼日本写真学会特別講演会―文化功労者の二人による―
▼第5回新画像システム・情報フォトニクス研究討論会
▼光設計研究グループ第47回研究会「環境と光学」
▼第8回日本写真学会光機能性材料セミナー
PRODUCTS INFORMATION
ディスプレイの今後はどうなるのでしょうか。
今より高精細で低消費電力,軽量で薄型というのが大きな流れでしょう。特に携帯電話や最近流行のスマートフォン,タブレット型端末には,これらの性能向上が強く求められています。これに3D表示,それも眼鏡を用いない裸眼方式が加われば,言う事なしという感じでしょうか。
現状の携帯用ディスプレイの主流は,液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといったところですが,一方で米国において普及が進む電子ブックに使われているのが電子ペーパー。こちらも注目を集めています。
電子ペーパーの表示方式としては,電気泳動方式やコレステリック液晶を用いたものなどがありますが,基本的には白黒表示や静止画表示です。少なくとも現状ではフルカラーの動画表示に最適という訳には行かないようです。
一方で,曲がるディスプレイの実現は長年の夢でした。究極の携帯用ディスプレイの形がそこにあると言っても良いかもしれません。電車の中で新聞や雑誌を読むように,みんながフレキシブルディスプレイを手にしている。そんな光景が近い将来実現すると,その研究に注目が集まっています。
フレキシブルディスプレイの最有力候補はやはり有機ELディスプレイでしょう。しかしここで問題となるのが,アクティブマトリックス駆動用の薄膜トランジスタをどうやって基板となるプラスチックフィルムの上に作り込むかです。現状の液晶ディスプレイのように薄膜トランジスタにシリコンを使おうとした場合,プロセス温度が高いため熱に弱いプラスチック基板に直接形成するのが難しいという問題があります。そこで有機半導体の登場です。有機半導体なら低温プロセスで作る事ができ,この問題をクリアできます。さらに,低コストで省エネルギーな印刷法を用いて大面積の素子を作ることもできます。「有機材料」,「印刷」,「フレキシブル」,この三つをキーワードとした研究・開発がいま注目を集めています。
今月号の特集では次世代ディスプレイとして注目の集まるフレキシブルディスプレイと有機エレクトロニクス技術の最新動向に焦点をあててみました。企画していただいたのは山形大学・有機エレクトロニクス研究センター・副センター長の時任静士教授です。
各ご執筆者の方々には最新の研究・開発をご紹介いただきました。お忙しい中を有り難うございました。
東日本大震災から1ヶ月以上が経ちました。
震災によって多くの人命と人々の生活が奪われ,経済も大打撃を受けました。被災地の産業拠点は破壊され,今も原子力発電所から出る放射性物質と電力不足が経済活動再開の足かせとなっています。復興には長い年月がかかるでしょう。
一方で,様々なイベントを自粛しようという動きもありました。しかし,過度な自粛は経済を萎縮させ,返って復興を遅らせる事にもなりかねません。むろんドンチャン騒ぎは良くありません。大規模停電を起こさないためにもピーク時の節電は必要です。しかし,通常の経済活動と被災者の方々に対する「気持ち」は分けて考えても良いと思います。普通に生活する事こそが,震災との戦いに勝利するための,我々が直ぐにでもできる復興支援策ではないでしょうか。
編集長 川尻 多加志
フレキシブル有機薄膜太陽電池の新展開(仮)
▼総論‥‥京都大学 吉川 暹
▼光伝変換機構と新材料設計‥‥京都大学 今掘 博
▼高分子系太陽電池‥‥住友化学(株) 三宅 邦仁
▼低分子系太陽電池‥‥出光興産(株) 東海林 弘
▼新たなセル構造と高効率化‥‥(株)東芝 細矢 雅弘
▼耐久性モジュール‥‥(独)産業技術総合研究所 吉田 郵司
(都合により,内容に変更のある場合があります。)